■音楽喫茶について
「音楽喫茶」。1970年代から1980年代にかけては、結構当たり前に使っていた言葉だったのですが、令和の時代、「音楽喫茶」という言葉を聞いたこともない方も多いのではないでしょうか。また聞いたことはあっても、どんな雰囲気の店だったのか想像できないと思います。ここでは「音楽喫茶」の特徴と同時に、「音楽喫茶」ではない「喫茶店」「純喫茶」との違いなどをお話しさせて頂きます。
●「音楽喫茶」とは何ぞや?
まずは「音楽喫茶」について解説しますと、簡単に言えば“音楽を聴きながらコーヒーや紅茶を飲む"というスタイルのお店です。
店内で流れる音源は99%がレコードです。各店舗、所有しているレコードの枚数もかなりの量でした。お店によってはレコードリストを準備しており、聴きたいレコードをリクエストすることもできました。また音質にこだわっているオーナーさんも多く、レコードをより高音質で再生するためのコンポーネント(※1)にお金をかけているお店も多かったと記憶しています。
音楽を聴くことが目的なので、ほぼほぼ会話は厳禁となります。と言いますか、どの店もかなりの音量で音楽をかけているので、会話自体が無理な空間なのです。お客も一人でというパターンがメインで、多くても2~3人程度のカップルやグループ同志でした。照明も暗めの店が多かったですね。
かけている音楽のジャンルについては、クラシック、ジャズ、ロック、日本のフォーク・ロック、カントリー&ウェスタンなど、ある特定の分野に特化しているのが特徴で、タウン情報誌などでは、聴くことのできる音楽により「クラシック喫茶」「ジャズ喫茶」「ロック喫茶」「フォーク喫茶」などと分類されて紹介されていました。
※1.レコードプレーヤーやプリメインアンプ、スピーカーといった機器を組み合わせて構築したオーディオシステムのことです。略称で「コンポ」とも言います。
●ほな「喫茶店」との違いは?
一方、「音楽喫茶」に対して「一般喫茶」という言葉がありました。「一般喫茶」はコーヒーや紅茶を飲みながら各人が思い思いに過ごす…グループ同士でお喋りしてもいいし、本を読みながらでもいいし、音楽を聴きながらでもいいし(当時だったら「ウォークマン」ですね)、最近だったら勉強しながらだって良い・・・そんな場所です。まあ昔からある「喫茶店」「純喫茶」や「カフェ」などと同じ位置づけですね。
ただ音楽に関しては、「一般喫茶」でも音楽をかけている店が多いのは確かなことでして、それならば「音楽喫茶」との違いは何?という事になります。最大の違いは「音源」、「音量」、「リクエスト」の3つになるかと思います。「音源」に関しては「音楽喫茶」がレコードであるのに対し、「一般喫茶」はカセットテープとか有線、現代であればインターネット配信です。「音量」に関しては、「音楽喫茶」が大音量であるのに対し、「一般喫茶」は会話も楽しめる音量。「リクエスト」に関しては「一般喫茶」では絶対に無理ですね。ちにみに 「有線」に対してのリクエストは可能でしたが、電話とかハガキとかでした。
●「音楽喫茶」が衰退した理由(仮説)
そんな「音楽喫茶」なのですが、1980年代後半あたりからどんどん衰退していくことになります。販売枚数ベースでCDがLPレコードを追い抜いたのが1985年なんですが、それが一つの分岐点になってたんじゃないかと。
ただ衰退の要因は他にも色々と考えられます。例えば「ウォークマン」の登場。音楽喫茶に行かなくても、一人で、大音量で音楽を楽しめるようになった。例えばレンタルレコード。当時レコードの国内盤は2500円、1980年代中ごろには2800円になるのですが、買わずに音だけを手に入れることができるようになった。高いレコードを買えないがために音楽喫茶でリクエストして聴いてみるというニーズもなくなった。例えばミニコンポの普及。それまではレコードプレーヤーやアンプなどバラバラで揃えるのが普通であったのに対し、すべてがセットになった「ミニコンポ」が手ごろな値段で買えるようになり、下宿の狭い部屋でも高品質な音楽を楽しめるようになった。まあ何となく「オタク」っポイイメージもあったりして、だんだんと敬遠されるようにもなったのかな?
あとは著作権の問題なんかもあるのかなあ。いま考えると、あれだけバンバン音楽かけっぱなしで著作権ってどうなっていたんだろうかと思います。たぶん払っていなかったと思うのですがどうなんでしょうか?いま考えると謎の業態でした。